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【文科省報道】私大入学定員管理の緩和で起きることは?

~今度の2023年度私大入試は更に合格者数が増える?!~

  • 大学・短期大学進学 2022年 06月13日

長年受験生を苦しめてきた、私大入学定員の厳格化が緩和される?!

文科省は次回入試から、入学定員の管理基準を4年間の総入学者数に対して基準を超えなければよい、という内容に変更する方針だという。

この結果、次回の私大入試で合格者数が大きく増える可能性がある。

なぜそうなるか、概要を解説したい。

SINRO! 編集長 河村卓朗

※2023年度私大入試の解説記事はコチラ

 
私大入学定員管理の基準緩和で合格者数が増える?!

6月6日、文科省が来春(2023年度入試)から私大入学定員の管理基準を緩和する方針であることが、新聞社などの報道によって公表された。

2018年以降、文科省による入学定員の厳格化政策で、入学定員8,000人以上の大規模大学は入学定員の1.1倍まで、4,000人以上~8,000人未満の中規模校は1.2倍まで、4,000人以下の大学は1.3倍までしか毎年の入学者を取れないことになっていた。この基準を学部単位でも超えてしまうと、補助金カットの対象となり、場合によっては億単位の損害を被るため、大学はこの基準を死守してきた。

今回の報道では、1年単位でカウントしてきた定員管理を、全学年(1~4年生)の総定員数で超えなければよいという形での規準緩和を文科省が考えているとのこと。

【2022年10月追記】大学関係者への聞き取りによると、文科省から私立大学への入学定員管理の基準緩和の通知は、今のところ学部新設などに関する基準緩和の通知のみであり、補助金カットの対象となる入学定員管理基準の緩和については特に通知は届いていない状況のようだ。

背景には、3月以降に多発している各校の追加合格による入学金の二重払い(追加合格がきた大学に改めて入学手続きをすることにより、先に合格が決まっていた大学に支払った入学金が無駄になる)を解消したいという意図があるようだがなぜ、結果として大学の合格者数が増える可能性が高いのかを解説したい。

 

大規模私大の入学定員枠に大きな余裕ができる!?

仮に、3,000人定員(1学年あたり。4学年で12,000人とする)の大規模校のA大学があるとする。現行ルールでは、1年間に募集できる定員数は最大で1.1倍の3,300人。一方、総定員数はこれを4倍した13,200人となる。

A大学が過去3年間、定員100%相当の3,000人ずつしか入学者を取っていなかった場合、3,000×3=9,000人が3年間分の学生在籍数となる。今回のルール変更により、この大学は総定員数13,200人から過去3年間の学生数9,000人を引いた4,200人までを次回入試で取れることになる。現行ルールでは次回入試で取れる学生数は3,300人までだったので、新ルールでは最大で約1,000人も多く学生を取れる計算になるのだ

 

※入学定員基準、変更後のイメージ(入学定員3,000人の場合)

1年ごとの入学定員で判断(現ルール)
全学年の総定員数で判断(新ルール)
 4年生  3,300人
 
 4年生  3,000人
 3年生  3,300人
 3年生  3,000人
 2年生  3,300人
 2年生  3,000人
 新入生  3,300人
 新入生  4,200人
定員の1.1倍以上で補助金
カット(1学年ごと)
4学年合計が1万3,200人以上でカット
学年ごとで人数調整できる

 

あくまでこれは机上論で、仮に1,000人も入学者を増やすと教室数の問題や合格ボーダーラインが下がる可能性が高いので現実的ではないが、イメージとしてご理解いただければよい。

重要なのは、ほとんどの大規模校が定員基準の1.1倍(A大学でいえば3,300人)を多少超えても超過ペナルティを心配する必要がほぼなくなる点が、今回のルール変更の最大のポイントということだ。

次回入試で大規模校を受ける場合、その大学の過去3年間の入学者数を必ずチェックしておきたい。A大学のような100%前後の充足率の大学が多いハズである。

次になぜ、大規模校は過去3年間に1.1倍(110%)どころか100%前後しか入学者を集められていないのかを解説する。

 

定員厳格化政策で入学者を絞り込まざるを得なかった大規模校

1.1倍基準のほとんどの大規模校は、過去3年間で100%前後しか入学者を取れていない。なぜなら合格者数が膨大な数になるため、入学手続き率が少し上がるだけで簡単に基準をオーバーしてしまうからだ。そのため、各校とも2月試験では「細心の注意を払って」「絶対に定員数を超えないであろう」正規合格者数しか出せない状況だったのである。

3月に入って予想以上に他校に入学者が流れて手続き率が悪いとなると、追加合格を出して入学定員ギリギリまで学生を集める方法を取ってきた。これであれば大学側が数をコントロールできて定員オーバーの心配がないからだ。大規模校はこの方法以外で定員管理をすることは不可能だったと思う。

ここ2年ほど、3月以降により志望度の高い大学から追加合格通知がきて、すでに受かっていた大学の入学辞退をし、追加合格を受け入れる受験生が多発し、入学手続き金の無駄が生じる事態が頻発したのはこのためである。

※まだ数校を調査したのみだが、2022年度入試では2021年度入試と比べて正規合格者数を増やし、追加合格数を減らした大学が難関校を中心に増えつつある状況ということも補足しておく。

これまでは“絶対に”1.1倍を超えない合格者数の出し方に四苦八苦しながらできる範囲で合格者数を増やしてきた大学が、次回入試では過去3年間の定員枠の「空き」も使えるようになるため、常識的に考えても、2月の正規合格の時点から多めの合格者を出しやすくなるはずである。


大規模校が合格者数を増やしたら、小規模校は苦戦することに?!

今回のルール変更で、大規模な有名大学は2月の時点で合格者数を出しやすくなることは間違いない。その結果、何が起きるのか?

あまり偏差値が高くない大規模校ももちろん今回のルール変更の恩恵を受けられる。特に過去3年間で多発した上位校の繰り上げ合格で入学式直前に学生を奪われてしまうなど、苦戦した大学は多めに学生を取ることも予想される。

結果、受験生は合格者数が増える大規模校に合格しやすくなる。すると、すでに2年連続で深刻な志願者減となっている、志願者数1万人以下の中小規模校には受験生が回って来なくなり、ますます苦戦することになるかもしれない。

 

高校側にとっては、大学の合格者数が増える(可能性が高い)グッドニュースであることは間違いない。一方で大規模大学にとっては、より多くの学生を集めやすくなるが、安易に合格者・入学者を増やすと学力レベルの低下も招きかねない点は注意が必要だ。

ほとんどの大学はこの時期までに2023年度入試の内容を決定済であろうから、そこまで大きな影響は出ないかもしれないが、募集人数が多い一般選抜で合格者数・入学者数を想定より増やす可能性があることは間違いない。

今度の入試は、長期戦で挑めば確実に合格チャンスが広がりそうだ。

 

※2023年度私大入試の解説記事はコチラ

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