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2024年度の私大一般選抜は、合格チャンスが多い最後の年!?

〜私大募集ルールの変更と、共通テスト利用に着目したい〜

  • 大学・短期大学進学 2023年 12月08日

コロナ禍がひと段落し、受験生向けオープンキャンパスや進学説明会の開催も活況となるなど、ようやく通常運転に戻りつつある大学受験業界。

現行課程では最後となる2024年度私大入試は安全志向になると予測する識者が多いが、実際はどうだろうか?

近年の私大を取り巻く入試動向に目を向けつつ、予測していきたい。

河村卓朗(SINRO!編集長)

 2024年度の首都圏私大入試はどのような傾向となるのだろうか? ここ数年、大規模私大の一般選抜における合格者数増が続いてきたが、今回の2024年度入試までは横ばい、または微減程度で推移するというのが私の予想だ。

つまり、受験生にとっては引き続き合格チャンスが多い入試となる可能性が高い。

 

※2024年1月更新:今年の2月後半~3月にかけて出願できる首都圏私大・短大の入試情報を公開しました。
詳細な内容は、こちらからschoollist202401banner3.png

 

一方で現高2生が対象となる、次回入試(2025年度)以降は後述の通り、大学の入学定員管理基準の変更による影響で、大規模校の中には再び合格者数の絞り込みを行う大学が出てくる可能性があるため、厳しい入試となる恐れがある。私大志望者は現役進学を考えた方が良いだろう。

 本稿では、これらの仮説について様々なデータをもとに解説していきたい。まずは、ここ数年の私大を取り巻く学生募集状況を見ていこう。2極化がますます加速している状況が分かる。

 

定員割れ大学が増え続け、
大学の「2極化」は加速の一途!

 「日本私学共済事業団」が8月に公表した「令和5年度 私立大学・短期大学等入学志願動向」によると、2023年度の学生募集で定員充足率100%を割った大学数は過去最悪の320校(53.3%)となった。つまり、半数以上の私大が定員割れを起こしているのだ。

 下図を見ると2021年度から3年続けて定員割れ大学が急増していることが見てとれる。

 この時期はコロナ禍とも重なり、早期に進路が決まる指定校制推薦などの年内入試に受験生がシフトしたり、大規模私大が一般選抜で追加合格などを絡め合格者数を増やし始めたりした時期である。

 

入学定員充足率100%未満の私大データ
〈入学定員充足率100%未満の私大の数・割合の推移〉
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 同事業団のレポートに記載されている大学規模別の定員割れ状況を読むと、小規模校ほど募集状況が芳しくない状況が見えてくる。前号でも触れた、〝近年の一般選抜で最も苦戦しているのは志願者数5000人未満の中小規模私大〞という結果ともシンクロする。

 一般選抜で志願者集めが難しくなった大学は、総合型選抜や学校推薦型選抜の募集人員を増やすなどの対策を取る傾向があるため、ここ数年、特に中小規模大学からの指定校枠が増えた高校が多いのではないかと推測している。実際に昨年、全国539私大で実施された総合型・学校推薦型選抜(指定校制を除く)の志願者数・合格者数は、それぞれ前年度比102.9%※、104.1%※と増加している。特に合格者数の伸び率が志願者数を上回っている点に注目したい。(※豊島継男事務所調べ)

 今年に関しても、中小規模大学は引き続き年内入試での学生募集に力を入れている可能性が高い。次に大学入学共通テストの動向について解説する。

 

年々志願者数が減っている、
大学入学共通テストを有効活用しよう!

 国公立大学受験生にとって必須といえる大学入学共通テストであるが、問題の文章量の増加、暗記だけでは解けない出題の増加などにより、高校での学習を基本とした対策だけでは対応が難しくなった影響からか、受験者数が年々減少している。

 下図の「大学入学共通テスト 受験者数の推移(19年度・20年度は大学入試センター試験)」で2019年度と2023年度を比較すると、志願者数は6万4249人減(2019年度比88.9%)※、受験者数は7万2147人減(2019年度比86.8%)※と、それぞれ10%以上の減少となっていることが分かる。

 特に、共通テストの3科目以下受験者数は約20%減※と更に減少幅が大きくなっている。これらのことから、一般選抜の共通テスト利用方式で私大受験型(3教科型・2教科型など)を受ける受験生が減り、年内入試にシフトしている可能性も考えられる。(※大学入試センターWEBサイトより調査)

 ここで注目したいのが、私大一般選抜における各大学の「共通テスト利用方式」の合格者数と倍率だ。実はここ2年ほどで倍率が大きく下がり、受けやすくなっている大学が増えていることをご存じだろうか。

 

この5年間の共通テスト受験者数
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一般選抜(大学独自試験)よりも、
共テ利用方式の方が低倍率のケースも!

 具体例として、東洋大学の2023年度一般選抜結果を見ると、一般選抜の平均倍率3.7倍に対して共通テスト利用方式(以下、共テ利用)の倍率は2.2倍となっている。

 他にも、明治大学は一般選抜4.1倍、共テ利用3.0倍。法政大学は一般選抜4.5倍、共テ利用3.2倍、日本大学は一般選抜2.6倍、共テ利用2.4倍など、共テ利用方式の倍率が一般選抜より低く、合格チャンスが増えている大学が多い。

 特に、4教科以上の多教科型では倍率が低くなる傾向にある大学が複数見られた。中には、共テ利用方式の倍率が1倍台という「ねらい目」大学も存在する。

 この要因として、近年、有名私大は一般選抜において大学独自試験よりも共テ利用方式で合格者を多く出す傾向にあることが挙げられる。

 実際に2023年度入試結果を調査してみたところ、一般選抜の共テ利用方式で、上智大学1822人増、法政大学1284人増、明治大学877人増、立教大学492人増など、前年度より合格者数が増えている大学は多い。(※以上、各校WEBサイト、入試要項などより調査)

 この背景には、独自試験では合格最低点を高い水準で維持するため安易に合格者数を増やさず、一定の学力が担保されている(と思われる)共テ利用方式の合格者数を増やすことで、優秀な受験生を獲得したいという大学側の意図もあるのだろう。

 以上のことから、私大志望の受験生の皆さんは共通テスト利用方式で、複数の大学に積極的に出願してみてはいかがだろうか?

 今回(2024年度)の共通テスト志願者数は出願締切最終日※の数で46万5469人。前年同日と比べて1万3879人※の志願者減となっている。※10月5日現在。

 

昨年から私大入学定員の管理基準が
変わった影響は大きい

 これまで本誌でもたびたび触れてきたが、ここ数年、首都圏有名総合私大の一般選抜の合格者数が増加傾向にある。この背景について解説していきたい。

 2016年度から続く入学定員管理基準の厳格化で合格者数を絞り込んできた大規模私大において、追加合格などを用いて合格者数を増やす手法が定着してきたこと、更に、昨年度より私学助成金不交付基準が「入学定員(1学年分)超過」から「収容定員(4学年分)超過」に変更されたことが大きい。(下図を参照)

 

2023年度より、私学助成金不交付基準が
「入学定員超過(1学年分)」から「収容定員超過(4学年分)」に
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 分かりやすく解説すると、2022年度入試(一昨年)までは収容定員8000人以上の大規模私大は、入学定員の1.1倍未満までしか新入生を取れなかったのだが、昨年のルール変更により、2023年度入試では4学年分の収容定員の1.3倍未満まで新入生を取ることができるようになったのだ。

 1学年3000人(4学年で1万2000人)の大学を例に挙げると、2022年度入試までは3299人しか取れなかった新入生が、2023年度入試では4学年分の1.3倍(1万5600人。1学年にならすと3900人)を下回ればよかったので、600人多く取れるようになった。

 しかも、昨年の段階では過去数年間の入学者数が定員数100%、または少し定員数を割っている大学が多く、その「不足分」を補うべく、2023年度入試では2月中の早い段階から正規合格者を多く出す大学が続出し、追加合格を出す大学は激減した。

 受験生にとっては突然のルール変更によって合格しやすい展開になったといえるだろう。

 下図に、入学定員厳格化の影響が大きかった2019年度から私学助成金不交付基準が変わった2023年度までの5年間で一般選抜合格者数が2000人以上増えた首都圏私大をまとめた。

 

2019年度と比べて一般選抜の合格者数が
2000名以上増えている首都圏の総合私立大学
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この5年間で大規模私大の一般選抜合格者数は大幅増!

 上図を見てみると、この5年間でいかに大規模私大の合格者数が増えたかが一目瞭然だ。特に日本大学、専修大学、東洋大学は際立って合格者数が増えている。更に、MARCHと称される大学群では、法政大学、明治大学が5000人以上増えている。

 これらの大学は受験者層が幅広く、国内屈指の志願者数を誇る人気校だが、この5年間の志願者数はおおむね微増・微減で推移しており、合格者の大幅増で合格倍率が下がっている大学もある。

 また、ミッション系大学として抜群の知名度を誇る立教大学、上智大学、明治学院大学、青山学院大学も大きく合格者数を増やしていることが読み取れる。

 エリア拠点校といえる関東学院大学、神奈川大学、獨協大学なども大きく合格者数が増えていることが分かる。また、この5年間で1000人〜1999人の幅で合格者数が増えている大学も多数ある。

 高校現場にとっては非常に喜ばしいデータだと思うが、補足すると一般選抜の合格者数には共テ利用方式も含まれている。前述した通り、直近の入試では共テ利用方式の合格者数を大きく増やしている難関私大が多いため、この点はお含みおきいただきたい。

 このことを差し引いても、5年前までの有名私大の合格者数絞り込みが厳しかった頃とは雲泥の差といえるだろう。

 

中小規模校の一般選抜は更に合格チャンスが大きい?

 では、一般選抜における中小規模校の状況はどうかというと、受けやすさに拍車がかかる可能性が高い。大規模校の合格者数がここ数年で大きく増えたこと、指定校制や総合型選抜で年内受験を目指す受験生が増えた影響などで、年明け以降まで残っている受験生が更に減ることが予想されるからだ。

 特に、3月まで残る受験生は大きく減るだろう。

 中小規模校の指定校制推薦に校内選考で漏れてしまった人、総合型選抜に落ちてしまった人は、志望校の昨年の一般選抜の倍率を調査し、2倍台または1倍台であれば、思い切って一般選抜も視野に入れてみてはいかがだろうか?

 最後に、冒頭で触れた〝2024年度入試でも大規模私大の合格者数は2023年度と同等、もしくは微減程度で推移する〞という予測について、その根拠を解説する。

 

2024年度入試は収容定員管理基準の過渡期。
25年度以降は再び厳しい入試に?!

 先に触れた、私大の収容定員超過の「新」管理基準は複雑なルールとなっている。収容定員8000人以上の大規模校においては、初年度の2023年度は収容定員の1.3倍、2024年度は1.2倍に引き下げられ、2025年度からは1.1倍での運用となる。※概要は下図を参照。

 

2023年度より、私学助成金不交付基準が
「入学定員超過(1学年分)」から「収容定員超過(4学年分)」に
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 2024年度入試に関しては、収容定員の1.2倍未満まで入学者受け入れが可能である上、新3・4年生の定員数に余裕(不足分)のある大学が多い。したがって、2月の時点で前回(2023年度)並みの合格者を出す大学が多くなるとみている。

 次回(2025年度入試)以降は、そもそも受け入れ可能な定員枠が1.2倍未満から1.1倍未満に減るので、入学者・合格者数が増えるとは考えにくい。それまでに学生を集めすぎた大学は絞り込みを行う可能性もある。

 よって、短期的にみれば、過渡期ともいえる今年は、大学側がある程度のゆとりをもって合格者を出しやすい最後の年になるだろう。

 

積極的な出願作戦で確実に合格をゲットしてほしい

 最後に本稿のポイントをまとめる。

  • 定員割れ私大数が過去最多の320校に。年内入試の利用者が更に増え、一般選抜を受ける受験生が減りそう。
  • 志願者減が顕著な大学入学共通テストだが、私大の共テ利用方式では合格者数が増えている大学が多い。
  • 収容定員管理基準の変更で、今回までは大規模大学が合格者数を多めに出しやすい状況。

 これらの情勢に加えて、英検などの英語民間検定の成績・スコアを利用する英語外部試験利用入試を導入する大学が年々増えている。これを上手に活用し、「取得済みの英語検定+1教科」などの少数科目で受験するという方法もある。

 私大入試は「情報戦」の側面が年々強まっている。入試を取り巻くルール変更や、志望校の過去の入試結果をよく調べて、これからの大学受験を有利に運んでいただきたい。

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