ユーザーの思いを汲み取るエンジニアを生むために
社員数約4000名を抱える、神奈川県を代表する自動車販売会社「神奈川トヨタ自動車」。
国内では自動車整備士の担い手不足が問題になるなか、好調な採用を維持しているという。
その背景には、エンジニアの処遇改善に向けた取り組みがあった―。
人材開発部の原田丈晴部長に、エンジニアに求められるサービスの質や、価値向上のための施策について語っていただいた。
世の中では若い人を中心に車離れが進んでいると言われていますが、全体として購入者が減っているとは感じていません。
〝モビリティ〞という観点で言えば、空飛ぶクルマなどへと多様化しても移動手段としての車が本質的になくなることはないでしょう。それが機械である以上、整備士は必要なので、国家資格を保持する自動車整備士はかなり先まで需要のある仕事だと思っています。
昔と比較して変わってきたのは、我々に求められるサービスの質です。車検や法令点検、板金塗装が中心だった時代と比べると、もっと整備士側から価値をつくって提供することが大事になっていると思います。
あらゆる情報をネットで得ることができる現代においては、車の専門家である整備士にしかできないアドバイスや問診が求められるのです。医者と患者の関係のようなものですよね。そしてそのためには、整備のスキルだけでなく、ユーザーの思いを汲み取るコミュニケーション能力が重要になってきています。
整備やアフターフォローでユーザーにいかに満足してもらうかが、現在の整備士の課題になっています。
車は高性能なコンピュータになってきていますが、だからと言ってコンピュータの知識がとても必要かというと、必ずしもそうではありません。
整備には電子化された専用端末を使用するので、それを扱うことができれば問題ありません。一方で、電気・電子に関する知識はこれまで同様に大事です。
2024年度採用では予想以上に志願者が集まり、100名の定員に対して145名を採用することとなりました。特にエンジニア職に対して、2023年4月から処遇を大幅に改善したことがこの結果につながったと思います。
具体的には、国家1級自動車整備士やトヨタ技術検定、自動車検査員資格などの資格取得者に対しての手当を厚くしました。
もともと、国家1級自動車整備士と国家2級自動車整備士の取得者では、待遇面にそこまで差はありませんでした。ただ、1級を取得するからにはそれ相応の技術と志の高さがあります。その特異性を企業が給料面でサポートすることで、エンジニアは自分の価値を信じられるんですよね。
私は自動車業界に身を置いて34年になりますが、長年、エンジニアの担い手不足の問題は処遇が改善されないことに起因していると考えていました。エンジニアを目指したいと思う人を増やすには、どこかの企業がその仕事に見合った制度を整えないと始まらないんです。だから、神奈川トヨタはそこに先陣を切って取り組みました。
ただ、志願者には「今後、業界全体で処遇はアップしていくだろうから、〝給料が高いから〞という理由だけでこの会社を選ばないでください」とは伝えましたね。処遇アップの取り組みも含めて、当社に価値を感じてもらった上で選んでほしいという思いがありました。
企業奨学金制度を実施しています。これは、高校卒業後に提携の専門学校に入学していただき、卒業後の当社への入社を条件に、入学手続金に充当できる75万円の奨学金を給付する制度です。また、2024年からは新たに、日本学生支援機構(JASSO)の奨学金制度を利用している方向けに、当社へ入社した後に返還のサポートをする制度もスタートしました。毎月一定の額が給料に上乗せされ、当社に10年ほど在籍すれば、専門学校の2年間分の学費に該当する奨学金を返し終わるような計算です。当社では2024年度採用から高卒採用を廃止しましたが、その代わりに、専門学校で学ぶ支援をしたいという思いがありました。
企業奨学金制度の受給者には、学校在学中から定期的に当社へ来てもらい、懇親会をしながらコミュニケーションを取る機会があります。スムーズに社会へ出ていくための準備期間にもなるので、志の高さがありながら金銭的な支援が必要な方にぜひ検討していただきたいです。
エンジニア職から始まって最終的には役員職に就く社員もいますが、自動車についての専門知識を身につけてお客さまと密に関わった経験は、その後に営業職や管理職など多様な選択肢を広げるベースになります。エンジニア職を突き詰めてもいいし、そこから自分らしいキャリアを見つけてもいい。女性の場合はエンジニア職を敬遠してしまうこともありますが、それがキャリア形成のファーストステップなのだと考えれば大きな可能性があると思います。
中高で勉強にうまく取り組めなかったという人にも、ぜひ検討してほしい職業です。車が好きで、人との会話が好きで、熱意がある人であれば、十分に活躍できる仕事です。専門学校や大学で学んでから、ぜひ当社で一緒に働きましょう。
人材開発部 部長
原田 丈晴 氏