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白百合女子大学の児童文化学科で聞く 大人も夢中にさせる「絵本」「ぬいぐるみ」「キャラクター」の魅力とは?

  • 大学・短期大学進学 2026年 03月05日

絵本は少子化が進む日本においても多くの人に親しまれ、市場や関連ビジネスも盛況です。

そんな絵本カルチャーを専門的に学べるのが、白百合女子大学人間総合学部児童文化学科。
ここでは絵本や児童文学などを通して「子どもの文化」を幅広く研究しています。

そもそも絵本の研究とは? 名作絵本が読み継がれる理由は? 気になる疑問を同学科の水間千恵教授、やたみほ准教授に聞きました。

聞き手・構成 河村卓朗(SINRO!編集長)

白百合女子大学 絵本対談

少子化が進む日本において、絵本市場は拡大を続けています。
『ぐりとぐら』シリーズ(福音館書店)に代表される名作のほか、『パンどろぼう』シリーズ(KADOKAWA)など大人も夢中にさせる絵本が人気を牽引しています。そこから派生するぬいぐるみやキャラクタービジネスも盛況だといいます。

そんな絵本カルチャーを専門的に学べる学科が白百合女子大学にあります。それが人間総合学部の「児童文化学科」です。
ここでは、絵本、児童文学、アニメ、ぬいぐるみ(人形)など幅広いテーマで、「子どもの文化」を研究しています。

そもそも絵本の何を研究する? 名作絵本が読み継がれる理由は? 気になる疑問を同学科の水間千恵教授(TOP写真右)、やたみほ准教授(TOP写真左)に聞いてみると「ジェンダー」「推し活」「言語化」など時代のキーワードがあふれ出しました。

絵本には「人生を楽しむヒント」が詰まっている

—『ぐりとぐら』や『おおきなかぶ』など、名作と呼ばれる絵本には読み継がれる理由があるのでしょうか?

水間 よく聞かれる質問なのですが、新書のタイトルみたいな「読み継がれるたった1つの理由」のようなものに集約する必要はないと思います。作品によって、読み継がれる理由はさまざまだからです。

私たちが絵本や児童文学を通じて、学生たちに伝えたいのは、ヒット作をつくるノウハウではありません。大げさに言えば、「人生の楽しみ方」を教えているのです。そのために、子どもたちが新しい世界を知る入口となる絵本に注目するのです。

つまり、名作と呼ばれる絵本には、「人生を楽しむヒント」が詰まっています。

絵本や児童文学を通じて「人生の楽しみ方」を教えているのです

やた 絵本という文化が残り続ける理由は、身体的な体験によるところも大きいと思っています。昔、親が読み聞かせてくれて、面白かった絵本を自分の子どもにも……というのは自然な流れですよね。どの絵本がいい? と聞かれたら、自分が知っている絵本を選んで、子どもとワクワクを共有したくなるはずです。

水間 絵本は紙の匂いや手ざわりと一緒に身体感覚として体験するものです。それが、家庭や幼稚園や保育園での、幼いころの思い出と結びついて、記憶に残るのです。デジタルデバイスでも本を読める時代ですが、絵本は単なる記号ではなく、モノとしての魅力もあるのだと思います。

やた 絵本を読むという体験は、幼児だけのものではありません。小学生はもちろん、大人も楽しめるような絵本も増えています。バッグの中に、好きな絵本をいつも入れている社会人がいてもまったく不思議ではありません。

絵本を読むという体験は、幼児や小学生はもちろん、大人にも楽しめます

水間 幼少期に好きだった絵本を大人になって読み返してみると「こんな話だったっけ?」と思うことがありませんか?

絵本は細かく対象年齢が区分されていることが多いですが、実際は読む人を選びません。そして、受け取る内容も年齢によってどんどん変わっていきます。そこが絵本の面白さでもあります。

絵本を通して、その国の文化や時代背景が見えてくる

—絵本から「人生の楽しみ方」を学べるという水間先生のコメントが気になります。絵本の研究とは例えばどのようなことをするのでしょう?

水間 その絵本が書かれた時代背景を調べたり、その作品が他の国でどのように描かれているかを比較したりします。

例えば、『おおきなかぶ』は、もともと東欧の昔話ですが、日本の絵本で描かれるときは白いかぶ。でも、ロシアの画家が描くと黄色です。抜く野菜だって地域によって変わります。アメリカではニンジン、とかね。

最近は、カボチャやキャベツなど、地面の上で成長した巨大な野菜を、みんなで力を合わせて収穫するパロディ絵本もいろいろ出版されています。

西洋の絵本ではおいしく食べるところまで描くのに、日本の作品は「抜けてバンザイ」という終わり方が多いのも面白いですね。こういった点に着目して、社会や文化の違いに目を向けつつ、子ども観の変化を読みとったり、絵による物語表現について考えたりします。

絵本の研究の一例を語る

やた 福音館書店版の『おおきなかぶ』も抜けて喜ぶところで終わりですよね。この本が発行されたのは1966年。日本が高度経済成長期に入ったタイミングでした。このころまでは、児童書では食べるシーンが描かれること自体が少なかったそうです。

一方で、1963年に同じく福音館書店から初版が発行された『ぐりとぐら』には、カステラを食べる有名なシーンが登場します。

みんなで分け合って食べる楽しさが描かれているのは、当時画期的だったようです。卵の殻を再利用しているところも、時代を先取りしていてすてきです。

水間 ここに「おとなしく我慢するのがいい子」という価値観からの転換点が見えますよね。仲間のために自分を犠牲にするのではなく、仲間とともに豊かになるという考え方が表れていると思います。

『ぐりとぐら』に関しては、ほかにもさまざまな考察ができます。まず、青い服、赤い服を着たぐりとぐらは、男の子でしょうか、女の子でしょうか? 「双子の兄弟」として設定したという作者の言葉をそのまま受け止めるなら、1960年代に男の子2人がエプロン姿で料理をして仲間にふるまうこと自体が、当時のジェンダー観に照らせば非常に革新的だったと思います。

『バムとケロ』シリーズに見る時代のジェンダー観

やた 名作絵本には、ぐりとぐらのようなバディ(仲間・相棒)がたくさん登場します。

最近では、『バムとケロ』も有名ですよね。これは1994年に初版が発行された人気シリーズで、イヌの「バム」とカエルの「ケロ」が同じ家で一緒に生活しています。いたずら好きのケロが部屋の中を荒らすとしっかり者のバムが片づける。まるで、子どもとママのやりとりを見ているようで、感情移入できるのだと思います。

『バムとケロ』シリーズはとにかく背景描写が細かくて、読み返すたびに新たな発見がある。そこも魅力だと思いますね。私も制作するうえで大いに参考になりました。

水間 『バムとケロ』シリーズは、イヌとカエルという異なる種の動物が一緒に暮らす様子から「新しい家族の形」を描いた作品だと考察されることが多いです。イヌとカエルだけでなく、種すらよくわからない小さな生き物たちも生活を共にしていますから、「多様性」「共生」の絵本ともいえる。LGBTカップルを描いた絵本だと受け止める人もいます。シリーズ第1巻が出版されたのは1990年代ですが、ジェンダーに関する新しい価値観が出てきた時代とシンクロしたということでしょうね。

このように絵本の解釈は無限に広がります。そもそも絵本や児童書を含む「文学」とは、「人」と「人が暮らす社会」を描いたもの。だから絵本について学ぶと、「人」と「人が暮らす社会」が見えてくるのです。

絵本について学ぶと、「人」と「人が暮らす社会」が見えてくる
『バムとケロのにちようび』『バムとケロのそらのたび』(島田ゆか 作・絵/文溪堂)、
『ぐりとぐら』(なかがわりえこ 作・おおむらゆりこ 絵/福音館書店)、
『アメチャウ国の王さまとひみつのカフェ』(やたみほ作/瑞雲舎)

自分の「好き」を自由に追究できる楽しさ

—作品ごとに語るテーマが無限にあることがよくわかりました。
では、児童文化学科の授業では、絵本をどのように扱うのでしょうか?

やた 私たちが所属する児童文化学科は、白百合女子大学人間総合学部にある1学年60名の小規模な学科です。

ここでは、児童文学、児童文化、制作創作という3つの視点から人間の原点である「子ども」を通して、多様な文化の在り方を考えます。絵本や児童文学だけでなく、アニメやぬいぐるみなどが好きな人も楽しめる授業がそろっています。

水間 例えば、私が担当する「絵本論」という授業では、文学批評の対象として絵本を扱います。『おおきなかぶ』や『バムとケロ』についてお話してきたようなこともその一例です。

他にも「絵本文化論」という授業では、編集者として名作絵本をたくさん世に送り出してこられた先生が、歴史やジャンルに着目しながら、絵本についてたっぷり講じてくださっています。

「児童文学」の授業も、日本だけでなくアメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、北欧、韓国など各国そろっているのですが、絵本はそれらのなかでも扱われています。

自分で絵本を創りたい、という人には、こういった講義科目に加えて、プロの絵本作家さんたちによる『絵本制作』の授業が複数用意されています。やた先生も、映像制作の授業だけでなく、絵本制作の授業も担当なさっていますよね。

やた ええ、「絵本演習」を担当しています。じつは、私は白百合女子大学の卒業生なんです。在学中にクレイアニメに出会って、映像作家を目指したのですが、当時、美大出身でクレイアニメに取り組んでいるような人がたくさんいたので、自分自身の強みは何だろうと考え、思いついたのが、幼い時から好きで取り組んできた編み物をベースにすることでした。

こうして誕生したのが「編みメーション」の『アメチャウ国の王さま』という作品で、つい最近その絵本版を出版したところです。児童文化学科では、手描き絵本やデジタル絵本に加えて、こうしたクラフト絵本をつくることもできます。もちろん、全員が創作をする必要はなく、絵本やキャラクターの研究に取り組む学生もたくさんいます。

児童文化学科の授業における絵本とは

水間 絵本は読書習慣の入口の役割も担います。子どもにとって絵本は最初の読書体験です。幼稚園教育要領や保育所保育指針にも、絵本や物語に親しむことの重要性が書かれています。

幼稚園・保育園の段階から文字や絵を通して物語に親しむことが重要で、それが将来的な読書習慣の形成につながっていく。絵本というのは、教育において、それだけ大きな影響力があるのです。「子どものためのモノ」というだけでなく「子どもと大人が共有するモノ」でもありますしね。

読書教育という観点では、児童文化学科は、絵本と各国児童文学だけでなく、「幼年文学」「ライトノベル論」「YA(ヤングアダルト)文学」といった、ジャンル別の授業までそろっています。児童文学について、ここまで幅広い領域をカバーしているのは日本では白百合の児童文化学科だけです。

やた 児童文学だけでなく、児童文化の領域があることも魅力です。アニメ、マンガ、ゲーム、キャラクター、ぬいぐるみなど幅広いテーマを授業で扱います。アニメキャラの推し活、聖地巡礼、テーマパークなども重要な研究テーマです。

創作系の演習では、アニメの二次創作に取り組む学生なども毎年いますね。とにかく、自分の「好き」を自由に追究できる学科だと思います。

児童文化の領域があることも魅力

「推し」を表現することで、「言語化」スキルも鍛えられる

—絵本だけでなく、ぬいぐるみやアニメキャラの推し活まで研究できるのは面白いですね。
では、授業を通して、学生たちにどのような力を身につけてほしいと思いますか?

水間 最初にもお伝えした通り、絵本や児童文学を通して、「人生の楽しみ方」を見つけてほしいと思っています。私は毎年、児童文化学科の卒業生が巣立つときに、「学びを活かして、豊かな人生を歩んでほしい」と伝えています。自分がそれを実現できれば、誰かの人生を豊かにすることもできるはず。

子どものための本や絵本では、「愛」「友」「善」など、日常会話ではやや話題にしにくい、人生の本質的なテーマも正面から扱うことができます。私も「自由に生きていい、でも世界をほんの少し美しくすることも忘れないで」というメッセージを一番好きな絵本から受け取りました。

自分の好きを追究して幸せになる力、そしてその幸せを他の人とわかちあう方法、そういったものを、児童文学・児童文化を通して学んでほしいなあと思っています。

絵本や児童文学を通して、「人生の楽しみ方」を見つけてほしい

やた 私は絵本やアニメの研究を通して、自分を知り、自分を表現する力を身につけてほしいと思っています。私のゼミでは、「好きなキャラクター」について発表する課題があります。マンガやゲームのキャラクターのどこが好きか、なぜ好きなのかを徹底的に考えて、表現することで、「言語化」のスキルも磨かれると思います。

「子どもの文化」を学ぶことは「次の社会を考えること」

—最後に児童文化学科に興味がある受験生にメッセージを!

水間 先ほどやた先生の話にも出ましたが「好き」を貫ける人、好奇心旺盛な人に向いている学科だと思います。自分の「推し」について周りの友達と共有し、互いにそれを楽しめる独特のカルチャーがここにはあります。

絵本について詳しくなくてもまったく問題ありません。「好きなもの」について徹底的に語れる人なら大歓迎です。

やた 私自身も、児童文化学科での4年間をとにかく楽しみ尽くした実感があります。私は特にムーミンが好きで、絵本に関することを学びたくて入学して、在学中にクレイアニメと出合い、その世界に没入していきました。そして、最終的に毛糸を使った手芸のキャラで作品をつくるという現在の作家活動にたどり着きました。

授業や先生たちとのコミュニケーションを通して、「好き」を極めれば、自然と将来像が見えてくると思います。

児童文化学科で豊かな人生を歩む第一歩を踏み出してください

水間 児童文化学科の卒業生たちの進路は実にさまざまです。作家活動をする人、出版社に就職する人もいれば、一般企業で活躍している人もたくさんいます。また、司書資格を取得して、図書館に勤務して、絵本や児童文学の知識を活かしている人もいますね。

やた 後の将来像が気になる受験生や保護者の方もいると思いますが、ここで「好き」を追究して、それを表現し続けた経験は、社会のあらゆる場所で役立ちます。

特に、「言語化」のスキルは、さまざまな場面で注目されています。絵本作家を本気で目指したい人だけでなく、絵本が好き、アニメが好きという人も将来の仕事につながる“何か”を見つけられると思います。

水間 児童文化学科で学べるのは、絵本や児童文学だけではありません。お伝えした通り、実に幅広いテーマを学ぶことができます。「子どもの文化」にフォーカスして詳しく研究することは、「次の社会を考えること」につながります。ぜひここで、豊かな人生を歩む第一歩を踏み出してください。

白百合女子大学 人間総合学部 児童文化学科

人間の原点である「子ども」を通して多様な文化の在り方を考える、日本で唯一の学科。
児童文学・児童文化・制作創作の3分野からアプローチでき、絵本、児童文学、アニメ、ゲーム、キャラクター、ぬいぐるみ(人形)など、さまざまなテーマを学べる授業がそろっている。

司書やおもちゃインストラクターの資格を取得可能で、卒業生たちは、出版社、教育関連企業、玩具・コンテンツ制作メーカーなど幅広い分野で活躍している。

お話を伺った方

白百合女子大学 人間総合学部 児童文化学科
水間 千恵 教授
専門分野:児童文学、YA文学、絵本
担当科目:児童文学史・英語圏、児童文学・YA文学、絵本論 など

やた みほ 准教授
専門分野:アニメーション制作・創作研究
担当科目:アニメーション制作、創作文化研究、絵本演習 など

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