2027年4月新設の東京都市大学創発デザイン工学環が挑む学びの新領域
AIの進化、気候変動、常に変化する国際情勢――。社会が直面する課題は、一つの専門分野だけでは解決できない時代に入っている。
こうしたなか、東京都市大学は2027年4月に「創発デザイン工学環」を開設する。理工学部・建築都市デザイン学部・情報工学部が連係し、「作る」「考える」を軸に、「社会実装」までを見据えた新しい工学教育を展開する構想だ。
新学環に携わる3名の先生に学びの特色や育成する人材像について聞いた。
聞き手・構成 河村卓朗(進路企画)
村井 「創発※」とは、今までにないものを生み出すこと、「デザイン」とは造形に限らずより広く構想や設計を含む行為を指します。これを東京都市大学が武蔵工業大学時代から積み上げた「工学」のノウハウの上で実現する。それが創発デザイン工学環の学びだと考えています。
※創発=複数の要素が組み合わさることで、それぞれの総和を超えた新しい性質や価値が生まれる現象。英語の「emergence」に由来する。
白木 私は機械工学が専門なのですが、以前から日本の工学教育にある種の閉塞感を感じていました。機械、電気、情報、建築―それぞれ高度に専門化される一方で、分野間が十分につながっていないと感じています。しかし、現代社会の課題は、単独の専門知識だけでは解決できません。しかも技術の変化スピードは非常に速く、AI分野などは、半年、1年で状況が変わってしまいます。
だからこそ、しっかりとした工学の基礎をベースに、異なる専門知識を掛け合わせ、新しい価値を生み出していく力が必要になる。そこから生まれるものが、私たちが考える「創発」なのです。
杉浦 私は環境学を専門にしていますが、環境問題というのは、そもそも単一分野では解決できないテーマです。私自身、大学院時代には、文系出身者が物理を学び、理系出身者が哲学を学ぶような環境で学んできました。気候変動のような複雑な事象が絡まり合う課題には、一つの専門分野だけで立ち向かうことはできません。
つまり、「分野横断」は、社会からの強いニーズを背景にしたものなのです。創発デザイン工学環で提供する分野横断型の教育は、新たな時代に応えるものだと考えています。

白木 新学環では、理工学部、建築都市デザイン学部、情報工学部の科目群を体系的に教育課程に組み込みつつ、学環独自の科目で、「デザイン思考」「モデリング」「プロトタイピング」といった新たな思考やスキルを養成し、社会課題を解決できる人材を育成します。
既存の3学部が連係することで、機能・構造・デザイン・情報活用を横断的に学べる環境を構築します。これは従来の工学教育にはなかった大きな特徴だと思います。
また、新学環では、演習科目を重視しています。今は3Dプリンターやモデリングツールが普及し、以前よりも圧倒的にプロトタイプを作りやすい時代になりました。しかし、ただ「作る」ことと、「使えるものを作る」ことは違います。
例えば、形としては成立していても、安全性や使いやすさ、強度が伴っていなければ、実際には社会で使えません。だからこそ、工学の基礎知識が重要になるのです。
村井 「手を動かす」という言葉だけが先行すると、「とにかく作ればいい」という誤解を招きかねません。私たちが目指しているのは、学びと実践が並行する教育です。例えば、デザインを考えるときにも色や形だけではなく、工学的な原理や理論への理解が必要になります。
物理や数学、情報、構造などの基礎を学びながら、それを演習の中で具現化していくことが重要なのです。
白木 ものづくりの本質は「機能美」にあると私は考えています。単に見た目が美しいだけではなく、使いやすさや安全性、合理性まで含めて考え抜かれているものは、本当に美しい。その感覚を身につけるには、やはり実際に作ってみるしかありません。なので、新学環の演習科目では、「作る」「考える」「繰り返す」のサイクルを徹底的に実践してほしいと思っています。
そして、こうした試作・検証の実践の場となるのが、新設される「デザインスタジオ〈仮称〉」です。ものづくりの拠点として、工作機器、計測器、3Dプリンター、IT設備、映像設備などが整備され、学生たちは自由にプロトタイピングを繰り返しながら、アイデアを形にすることができます。

白木 「デザイン工学」とは、工学的な知識や技術を基盤に、工業製品・情報システム・建築・都市などさまざまな対象に対して、機能性・安全性・使いやすさ・美しさを追究していく学びの領域です。
新学環では、さらに「イノベーションの創発」にも挑みます。こうした全体像を概観できるのが、1年次に履修する「創発デザイン工学概論」です。ここでは学環担当教員や学外のイノベーター、デザイナーによる多種多様な分野における「創発」や「デザイン」の実例を学ぶことができます。
村井 その後、2年次後期から応用系の演習がはじまります。なかでも特徴的なのは、「プロトタイピング応用演習」でしょう。ここでは、3Dモデリングやプログラミング、電子工作など、それまでに学んだ知識や技術を用いて、社会実装を見据えた具体的な構想と試作・検証に挑戦できます。
「プロトタイピング」とは、「試作品(プロトタイプ)を実際に作りながら、アイデアを検証・改善していくこと」を指します。私は学生に「完成度にこだわらず、まず1回作ってみよう」とよく言います。私の専門である建築学では、最後の完成模型だけを作るのではなく、「検討模型」を何度も作ります。
最初から完成度を求めるのではなく、まずは形にしてみる。すると、自分でも気づいていなかった課題や可能性が見えてくるのです。
こうした経験は、AI時代にこそ非常に重要だと思っています。生成AIで、画像も文章も簡単に作れる時代になりました。しかし、生成されたものに本当に価値があるかを判断するのは人間です。その判断力は、自分で作って、失敗して、改善を繰り返した経験がないと育ちません。
杉浦 社会課題というのは、アイデアだけでは解決できません。現在は、高校教育の現場でも探究活動が普及していますが、新学環ではさらに一歩進んで、創発したイノベーションを「社会実装」につなげる経験ができる点が大きな特色です。
つまり、アイデアを出すだけで終わるのではなく、試作し、検証し、社会で試し、また改善する。そのプロセスまで含めて学ぶことができるのです。

白木 「ひらめきプログラム」は、従来の大学教育の枠を超えて、文理横断・分野融合型の学びを実現するための独自教育プログラムとして運用してきました。ここで行ってきたPBL(課題解決型)プログラムのノウハウは、確実に新学環に受け継がれるでしょう。
杉浦 例えば、私が担当した「ひらめきプログラム」の授業の一環で、とある公立小学校で4年生の子どもたちが「脱炭素」をテーマに描いたロボットのアイデア図を本学の学生たちが実際に3Dプリンターで形にしたことがありました。1回作ってみて、「何か違う」と感じて、また修正する。
このときに面白かったのは、「目の大きさ」を決めるだけでも何度も試行錯誤を繰り返したことです。結局、1か月近く調整を続けました。
作りながら考え、周囲からフィードバックを受けることで、さらに意識が変わっていく―。創発デザイン工学環では、こうしたアイデアを社会実装までつなげる体験プログラムをさらに本格的に展開していきたいと思っています。
白木 教育連携にあたり、実際にSUTDを視察しましたが、非常に刺激を受けました。企業と連携しながら、学生が4〜6人のチームでプロトタイプを作り、社会課題に取り組んでいました。ファブリケーション(ものづくり)施設も充実していて、技術職員のサポート体制も非常に整っていた。
私たちも、SUTDとの教育連携を通じて、「考えながら作る」環境を本格的に構築していきたいと考えています。
村井 SUTDとの連携によって、国際的なデザイン教育やプロトタイピング教育の知見を取り入れながら、日本型の工学教育と融合させていきたいと考えています。東京都市大学には、旧武蔵工業大学以来の「手を動かしてみる文化」があります。その強みを活かしながら、新しい時代の工学教育を形にしていきたいですね。

杉浦 私は、「正解のない課題にワクワクできる人」に来てほしいですね。社会には、まだ誰も答えを持っていない問題がたくさんあります。そのときに、「難しいから無理だ」と立ち止まるのではなく、「まずやってみよう!」と主体的に動ける人に向いている場所だと思います。
村井 高校時代に、すでに完成された専門知識を持っている必要はありません。むしろ、「何かを作ってみたい」「やってみたい」という気持ちを持っていることの方が重要です。
新学環では、実践を通じて、そうした好奇心を本気の学びへ変えていきたいと思っています。この学びは造形の「うまい」「ヘタ」のみを問うものではありません。「ものづくりが好き」というバイタリティあふれる受験生を待っています。
白木 新学環では、工学の技術と理論に裏打ちされたものづくりを経験できます。ただ「作る」だけでなく、細かい動きや制御機構、材料などの知識も身につけた上で、本当に価値のある「創発」に挑める。これこそが、理工系の教育・研究の蓄積がある東京都市大学に新設される創発デザイン工学環の独自性です。
私たちが育成するのは、「ものを作るだけ」の人ではありません。作りながら考え、他者と協働し、より良い形を模索できる人です。ここで一緒に次世代の社会課題に挑み、それを解決するイノベーションを創発しましょう。

東京都市大学
理工学部 機械工学科
白木 尚人 教授
教育開発機構
杉浦 正吾 教授
創発デザイン工学環設置準備室
村井 一 准教授
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