渋谷・青山を舞台に既存5学部の専門知を結集した「学環」で次世代のデータサイエンス人材を育成
2027年4月、青山学院大学が統計データサイエンス学環を開設する(設置予定)。
「統計」を冠した日本初の学部(学環)で、既存5学部と連係し、多様な領域の課題を解決できる専門性と実践力を兼ね備えたデータサイエンス人材を育成していく。
AI時代における「統計学」の重要性、「学環」という組織の意義、ここで育成する人材像について、新学環開設準備室室長の荒木万寿夫教授に伺った。
聞き手・構成 河村卓朗(SINRO!編集長)
青山学院大学は、文系・理系の11学部27学科を擁する私立総合大学です。ここに新設される「統計データサイエンス学環」の特色は、青山キャンパス初の理系学士課程であり、統計学を基盤としたデータサイエンス教育です。データを読み解くために欠かせない考え方の基礎を統計学から学び、データサイエンスの知識・技術によって問題を解決するための実践的な力を養成します。
「学部」ではなく、「学環」であることも新組織の大きな特色です。既存の教育人間科学部、経済学部、法学部、経営学部、理工学部の5学部と連係し、多様な領域の課題に対応するための授業や実習環境を整備していきます。
生成AIが急速に社会へ浸透した今、プログラミングなど多くの知的作業をAIが代替してくれる時代になりつつあります。そのため、データサイエンスを学ぶ意義は以前より薄れたように思えるかもしれません。
しかし、私たちはむしろ逆だと考えます。誰でもAIが出力した結果をそのまま使うことができる半面、その出力結果の本質を理解できないと説得力は弱い。だからこそ、意思決定に必要なデータを適切に集め、分析結果を検証し、根拠をもって説明する力が今後いっそう重要になるのです。そして、こうした力の中核にあるのが「統計学」だと私たちは考えています。
本学環は機械学習に代表される「AI的分析手法」だけを学ぶ場ではありません。現象を正しく記述するためのデータ収集と品質の見極め、何が結果を動かしているのかを考える推論、不確実性を踏まえつつ説明責任を果たす姿勢まで含めて、統計学を軸にしたデータサイエンス教育を体系的に提供していきます。
データサイエンスは、統計学や情報科学だけで完結する分野ではありません。実際には、教育学、経済学、法学、経営学、理工学など、多様な領域の課題解決に活用されています。また、各分野の技術進歩や制度改正は非常に速く、そうした状況に合わせて、教育内容も柔軟かつ迅速に組み換えていく必要があります。
そこで本学では、単独の学部として閉じるよりも既存5学部の専門性を結集し、最新の論点を反映した授業を展開しやすい「学環」という形が最適だと判断しました。
5学部連係の意義は、単に科目数を増やすことではありません。「生成AIと著作権」であれば法学の専門家、「データ駆動型経営」であれば経営学の専門家、「AIを活用した教育」であれば教育学の専門家が教えることで、格段に学びのリアリティや解像度が高まります。これによって学生は、学んだ知識がどの分野でどう使われ、どのような課題と結びついているのかを具体的な文脈の中で理解できます。
もちろん新学環にも専任教員を配置し、統計学やデータサイエンスの専門知識をベースに各研究分野との連携を図りながら、特色ある教育を展開します。
各分野の専門家が揃う「学環」という体制は、学際性と即応性を両立させるために最適な教育組織だと考えています。
統計データサイエンス学環の4年間は、「基礎→応用→実践」へと段階的に学びを深める構成になっています。まず1・2年次では、数学、統計学、プログラミング、AI概論などを通じて数理的基盤を固めていきます。さらに、「基礎ゼミナールⅠ〜Ⅳ」で、問いを立て、情報を整理し、考えを言語化するための思考力を養います。ここでは、課題へのアプローチ方法や発想法だけでなく、意思決定を誤らせる落とし穴にも触れながら、データと論理で考える姿勢を体験的に学ぶことを重視しています。
3年次には「統計データサイエンス演習」、4年次には「卒業研究」を配置し、実データや実課題に向き合いながら、分析・検証・説明までを自ら担う力へつなげていきます。
少人数制の利点は、単に教員との距離が近いということではなく、学生一人ひとりの思考の過程まで見ながら伴走できることにあります。データサイエンスの実践的スキルは座学だけでは習得困難です。私たち研究者もかつて、指導教員と徹底的に試行錯誤を繰り返しながら、「暗黙知」にあたるデータの扱い方を身につけました。これは少人数制教育でしか実現できません。自分たちが受けてきた本当に価値ある教育を新学環の学生にも提供したいと考えています。

もちろん大きな強みだと考えています。渋谷・青山という立地の最大の意味は、データサイエンスを教室の中だけの学びに閉じず、実業の現場とつなげやすいことにあります。リーディングカンパニー、スタートアップ、官公庁、各種組織との接点を持ちやすい環境にあるため、実課題に基づく共同研究やPBL(課題解決型学習)の学びを構想しやすいメリットがあります。
特にBIT VALLEYと呼ばれるこのエリアは、デジタル技術や新しいビジネスの実践が集積する場でもあります。AIのインフラ化によって社会経済が急速に変貌しようとするなかで、学生が当事者として「いま社会で何が起きているか」を肌感覚で捉えながら実体験を通じて学べることには大きな価値があります。
産学連携の取り組みに関しては、青山キャンパスに設置予定の「統計データサイエンス研究教育センター(仮称)」を中核として、周辺企業等との連携や共同研究の機会創出を推進していく予定です。ここで企業研究者の受け入れや機密性の高いデータの適切な管理体制を構築し、学生が実データでの研究経験を積める環境を整備していきます。大学の授業で使うのは整理された「きれいなデータ」ですが、実際の企業データは欠損や外れ値も含み、使える状態にするだけで大変な手間がかかります。社会に出る前に「本物のデータの厄介さ」を学んでほしいと思います。

私自身の学問的な出発点は統計学にあります。学部時代から統計学を専攻し、大学院に進んでからは、統計学が理学や工学はもちろん、経済学や経営学から、心理学、文学、法学に至るまで、本当に幅広い分野で必要とされていることを改めて実感しました。これほど社会的なニーズが高いにもかかわらず、日本には統計学を主専攻として学ぶ学部がない……。このことに、私は以前から違和感を抱いていました。
そんなとき、新学環の教員として加わる西内啓先生の著書『統計学が最強の学問である』が2013年に世に出て、翌年には「ビジネス書大賞2014」で大賞を受賞します。このことは、統計学に対する社会的関心の喚起に繋がったと思います。
こうした流れの中で、統計学を教育の核として正面から掲げる学部が必要だという思いが改めて強くなっていきました。そこで学内の仲間たちとも議論を重ね、「データサイエンス」の前にあえて「統計」を冠した教育組織をつくる意義を共有するようになりました。
統計学やデータサイエンスが社会に必要だと感じる場面は、これまでも数多くありました。最近では、出版業界に就職した娘とマーケティング業務における統計学の必要性について話したことがあります。そこで娘が、「学生のうちに統計学やデータサイエンスの基礎を学んでいれば、仕事で扱うデータをもっと的確に読み取り、よりよい提案や判断につなげられたのに」と言っていたのは印象的でした。もちろん、誰もが高度な数理モデルまで学ぶ必要はありません。しかし、一定の統計学的なリテラシーを身につけて社会に出るだけで、仕事の質や判断のあり方は確実に変わると考えています。
統計データサイエンス学環が受験生に求めるのは、与えられた情報を鵜呑みにせず、問いを立て、考え抜く力です。これを鍛えるためには、高校数学をしっかり理解しておくことが必須条件となります。高校数学は大学で学ぶ解析学や線形代数学へと連続しています。それが統計学や機械学習を学ぶ土台になります。
本学環の入試では理系の学位プログラムであることを踏まえ、入学後の統計学・数理科目の履修に耐えうる基礎学力をしっかり確認することを基本方針とします。定員約30名の「一般選抜(個別学部日程)」では、「大学入学共通テスト」と独自問題の「総合問題」を組み合わせた設計を予定しており、大学入学共通テストでは「数学Ⅰ・A」「数学Ⅱ・B・C」を必須とすることで、数理的分析力の基盤を評価します。
加えて「総合問題」では、データや図表、文章、分析結果を正確に読み取り、筋道立てて考え、論理的に判断し、自分の考えを表現する力を見極めます。その他、外国語・数学・理科または数学の3教科で受験する「一般選抜(全学部日程)」、外国語・数学・理科または情報の3教科で受験する「大学入学共通テスト利用入学者選抜」もあります。
私たちが見たいのは、知識を暗記する力ではなく、与えられた情報を読み解いて考える力です。本学ウェブサイトの入学者選抜情報ページで、前述の「総合問題」のサンプル問題を公表しているので、参考にしてみてください。

データは先入観や偏見を相対化し、現実を正しく捉える手がかりになります。しかし、何を問うか、何を優先するかを決めるのは人間です。そこには、人間側の価値観や倫理観、判断と責任、そして他者や社会への想像力や思いやりが不可欠です。
本学環では、データ分析の技術そのものだけでなく、問いを立て、検証し、説明し、合意形成につなげる人間的な力の育成も重視します。データにもとづいて判断することは、冷徹になることではありません。むしろ、課題を抱える人や組織に寄り添い、よりよい解決策を粘り強く探るために、データを誠実に使うことだと考えています。そうした姿勢は、本学が育てたい「サーバント・リーダー※」像にもつながるものです。
AIが高度に発達する現代だからこそ、人間側の責任や人間性がいっそう問われています。データを使いこなせるだけの技術者ではなく、統計学・データサイエンスの高度な知識を駆使して、困っている人に寄り添える課題解決型人材をここから輩出していきたいと考えています。
※青山学院が育成する人物像で、「自由で自立した存在として、他者に仕えるとともに、互いの価値を見出し、それを他の価値とつなぐことによって新しい時代を創造する者」
青山学院大学
新学環開設準備室室長
学長補佐(データサイエンス担当)
経営学部経営学科
荒木 万寿夫 教授
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