90年以上の伝統を誇る老舗音大がデジタルコンテンツ制作の学部を新設する理由とは?
昭和音楽大学では、2027年4月に「芸術工学部〈設置認可申請中〉」の開設を目指している。
芸術とデジタルコンテンツ制作の技術を融合させ、急成長を続ける日本のコンテンツ産業を担う人材を育成する。
文部科学省「大学・高専機能強化支援事業(支援1)」にも採択された新学部の学びの内容と育成する人材像について、下八川公祐副理事長に伺った。
聞き手・構成 河村卓朗(SINRO!編集長)
昭和音楽大学は、下八川圭祐声楽研究所として1930年に設立され、今年で創立96年を迎えます。小田急線の新百合ヶ丘駅から徒歩数分のキャンパスには、1300席を超える客席を擁する劇場「テアトロ・ジーリオ・ショウワ」をはじめ、クラシックからポップス、ロック、ジャズ、ミュージカルまで22の専門コースが揃います。
「礼・節・技の人間教育」を建学の理念とし、各々の専門分野における実践的な能力を備えた人材を育成することを目的としています。
附属の音楽・バレエ教室を擁し、地域の音楽文化の発信拠点としても知られています。生演奏で人を感動させることを何より大切にする姿勢が、本学の教育理念として創立以来受け継がれています。
そんなカルチャーが、ジャンルを問わず人を感動させることに向き合う学生を引き寄せてきました。
音大に工学部?と不思議に思う方も多いでしょう。実は、音楽の学びの根底には、常に数理的な発想が存在します。クラシック音楽におけるソルフェージュもポップスのコード進行も構造は数理的です。つまり、芸術と工学はもともと相性がいいのです。
演奏家が音楽理論を学び、反復練習を重ねながら精度を上げていく工程は、ITエンジニアが情報理論を踏まえてプログラミングを習得していくプロセスと非常に似ています。そのため、数理的な発想をもつ音楽家は昔から多いし、機械が大好きな演奏家もたくさんいます。
心の内にあるイメージや感情を身体表現として伝えるノウハウは、デジタル技術を使ったコンテンツ制作にダイレクトに応用できます。芸術工学部〈設置認可申請中〉は、その可能性を切り拓く学びの場となるでしょう。
芸術工学部〈設置認可申請中〉には、2つのコースが設けられます。
「デジタルエンタテインメントコース」は、プログラミングをはじめ、作曲やデッサンなど音楽・ビジュアルの両面から技術者・クリエイターを育成します。ロボット工学の専門家も教員に迎え、フィジカルとデジタルを横断した学びも展開します。
「デジタルコンテンツ構想コース」が育てたいのは、制作現場の工程を深く理解したうえでプロジェクト全体を牽引できる人材です。技術をわかった上でプロデュースできる人間こそが、新しいコンテンツを生み出せる。現場を熟知した経営者が成功するのと、同じ理屈です。音楽を奏でる仲間が日常にいるこの環境こそ、他の情報系学部にはない本学ならではの強みです。
そして、情報学をしっかりと学べることも、新学部の大きな特長です。数学は情報学を理解するためのいわば基礎体力。線形代数を含む数理系の科目から、プログラミング、情報セキュリティまでカリキュラムを整備しています。
プログラミングはコンテンツ表現のためのツール。だからこそ基礎科目として位置付けています。習得すれば、自分の表現の幅が一気に広がります。音楽学部の学生との合同授業や共同制作を通じて、異なる専門性を持つ仲間と協働する力も自然と身についていきます。


スタジオ、コンサートホールなどの音響設備がキャンパスに充実しており、ライブアートの場として実際のホールやスタジオを授業で使える環境は、本学ならではの魅力です。
2027年完成予定の新棟「D棟」は「デジタル・デザイン・ディマンド」の頭文字を冠しています。既存の校棟と地続きにつながる造りとなっており、芸術工学部〈設置認可申請中〉の学生が日常的に音楽学部の学生と交流できる環境が整っています。1年次の基礎ゼミでは両学部の学生が合同でプレゼンテーションの技法などを学ぶ機会も設けられる予定です。
さらに川崎市マイコンシティや音楽業界をはじめとする、多彩な業界とのプロジェクト型学習も充実しています。
本学部では音楽経験の有無も、理系・文系も問いません。入試では実技の能力よりも「どのような表現活動がしたいか」をプレゼンテーション形式で確認します。
高校の教員の方や保護者の皆さんには、受験生の「何かをつくりたい」「日本の文化を面白いと思う」「誰かを喜ばせたい」という想いをぜひ後押ししていただきたいと思います。なお、音楽学部と同様の特待生制度を芸術工学部〈設置認可申請中〉でも継続する方向です。
本学には自分たちが生み出したものを世の中に届けるカルチャーがあります。コンテンツ産業が急成長を続ける中、音楽の力と確かなデジタル技術を併せ持つ人材への期待は、かつてなく高まっています。その担い手を育てることこそが、新学部の使命だと考えています。
昭和音楽大学
下八川 公祐 副理事長
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