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2020年度 大学入試改革(後編)

動向に左右されることなく合格ラインを突き抜けてほしい

  • 大学・短期大学進学 2019年 03月08日

2020年度以降の大学入試では「大学入学共通テスト(以下、共通テスト)における「記述式問題の導入」や「調査書の記載分量制限の撤廃」「英語4技能の評価」といった改革が行われます。全国の高校にとっては、これらの内容を理解して対策を進めることが喫緊の課題です。

そこで、半世紀以上にわたり蓄積してきた代々木ゼミナールの知見を学校現場に提供する、教育総合研究所の佐藤雄太郎所長にお話を伺いました。

記事の前編・後編

(前編からの続き)

主体性を育む機会創出に高校全体で取り組んでほしい

― 学力の3要素に含まれる「主体性」の評価方法が不明です。

現行の大学入試において、主体性評価をする方法としては、主に「調査書」「面接」「小論文(志望理由書)」が挙げられ、多くは推薦・AO入試で活用されています。また、評価項目は、調査書にある《学内外での活動(総合学習や部活動等)》、《課題研究》、《資格検定の取得》等が対象になると予想されます。新制度からは、一般選抜でも調査書等の「積極的な活用を促す」とあり、一部の大学では「評価の対象(加点等)」としての活用も発表しています。ただ、志願者数が多い大学(例えば私大)は、新制度入試からも「入学後の参考」とするところが多くなるように思います。

なお、今回の改革では調査書の書式が変更され、記載分量の制限がなくなるため、入試区分によっては、先生方の作業量が増す場合もありそうです。その点、「JAPAN e-Portfolio(*1)」の取り組みは、一つの解決策となる可能性があります。JAPAN e-Portfolioは、短期大学を含む111大学が参加(*2)しています。そのうち実際の入試で利活用する大学は、参画大学の約10%程度で、それ以外の大学では、入学後の参考資料や統計(今後活用するための)資料としての活用を検討しているようです。2021年度入試に向けて、web出願時に、学校での活動を報告させる大学も登場してきています。現段階では、「入学後の参考資料」とする大学が多く、実際の入学試験に活用する大学が増えるのは、2021年度以降となりそうです。

調査書や入試での活用とは別に、高校で学びを振り返るということは、これからの教育において必要な取り組みとなります。例えば、2018年6月に文部科学省が施策として示した「Society5.0に向けた人材育成」のなかで、「スタディ・ログ等を蓄積した学びのポートフォリオの活用」、つまり、学校教育における個人の学習状況を蓄積する方針を示しており、ゆくゆく2025年度の「大学入学者選抜要項」を目途に、調査書の電子化等を図りたいとしています。

そのため、高校側としては、生徒の高校生活の振り返りのためにも書きまとめていくことはとても意味のあることです。総合的な学習から各種校外学習、地域活動や部活動など、これまで通り評価することがトピックになる取り組みを強化してほしいと思います。


*1 :文部科学省「大学入学者選抜改革推進委託事業(主体性等分野)」で構築・運営する、高校eポートフォリオ、大学出願ポータルサイト。
*2 : JAPAN e-Portfolioで公表されている申込大学数(2018年7月28日現在)。

英語外部試験には1年次から挑戦を

― 英語で対策すべきことは何があるでしょうか。

英語については、新制度入試から「読む・聞く・書く・話す」の4技能が評価の対象になります。2017年、18年に実施された「試行調査」を参考にすると、共通テストの「筆記」は、リーディング中心の出題となり、リスニングは、問題数が増える見込みです。現在のセンター試験では、筆記200点、リスニング50点の配点ですが、共通テストからは、いずれも100点(合計200点)となるため、配点上の関係から、問題量が増えると予想できます。また、リスニングは、ネイティブの発音に限らないと出題も検討されているため、センター試験以上に入念な対策(指導)が求められそうです。

新制度から加わる「話す」の評価手段は、英検®やTOEFL、TOEICなど、共通テストの利用として認定された7団体24種類の外部試験に委ねられます。なお、共通テストで活用できる外部試験の成績は、高校3年の4月から12月に受検したものに限られます。

ただし、私立大学等の個別選抜で活用される外部試験の成績は、過去2年間のスコアを提出できるケースがほとんどです。高校1年次からチャレンジを始め、外部試験に慣れておくことは決して無駄ではないはずです。

英語の入試改革については、スーパーグローバルハイスクール出身の生徒や、スーパーグローバル大学の学生に限ったものではなく、広くグローバル人材を育成しようとする観点から、全国的に英語力の底上げをめざす考えがあります。高校の授業では4技能の向上をめざして、生徒のレベルに応じた適切な指導体制の確立が望まれるところです。

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合格に“裏ワザ”はない。地道な努力こそ最良の策

― 大学入試の将来展望と、受験生へのアドバイスをお願いします。

先ほど少し触れましたが、現在、国が進める「Society5.0」のうち、文部科学省では、小学生から大学にいたるまで、情報に関連した教育の充実を図るべく、予算も手厚くしています。「Society5.0」のキーワードになるのは「AI」や「ビッグデータ」です。データサイエンスや統計教育の充実をはじめとして、プログラミングなどの情報工学分野へのより一層の注力が方向性として示されており、2024年以降の共通テストに「情報」を科目として追加することも検討されています。また、文・理の両方をバランスよく学習することが推奨され、大学教育においても、これまで以上に分野横断型の学習が進むと考えられます。文理融合型学部や学科の定員増も見込まれますので、大学選びや学部選びの際には大きな判断要素になるでしょう。

新制度入試は2020年度からスタートとなりますが、これまでは、大学受験者の多くが高校3年になった翌年1月(センター試験)までに学習を間に合わせるというのが1つの目安だったと言えますが、高校3年の4月から外部試験が始まると考えると、英語については、少なくとも高校2年までには受検する試験の傾向と対策を知り、学習について一通りの目途をつけておく必要があります。総合型(AO)・学校推薦型(推薦)についても、共通テストや学科試験を課す大学もあるでしょう。そうした場合、外部試験の成績提出を求めることも想定しなければなりませんので、これまで以上に、家庭学習を上手く取り込んだ学習計画を立てる必要がありそうです。合格には決して裏ワザがあるわけではなく、やるべきことを愚直にやるしかありません。「作戦」を立てるとしたら、一つの安心材料として「東大だって満点は必要ない」という認識をもつことです。動向に振り回されることなく、目標をしっかりもって、コツコツと努力を重ねていくことが何よりの作戦なのです。

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